※ユノがヴァンパイアに狙われる、という妄想小説です。苦手な方は読まないで下さい。
完全自己責任でお願いします。
今までのお話
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Pure Blood 8
「待つのは本当に今日だけですからね」
「分かっています。ありがとう」
次の日になってもユノは目を覚まさず、驚いたマネージャーは医者を呼んだ。
医者の看たては
「とりたてて、身体に異常は見当たらないが、体温がとても低くなっている。心拍数も通常より少ない。病院で専門家に看てもらった方がいい」
との事だった。
マネージャーはすぐに病院に運ぼうとしたが、チャンミンが止めたのである。
詳しくは話せないが、ユノは病院に行っても治らない。今日、一日待って欲しい、と訴えた。
マネージャーは納得できないまでも、チャンミンの必死の形相に何かを感じ取ったらしく、しぶしぶユノを病院に連れて行くのは明日まで待つ事を約束してくれたのである。
「僕は出かけてきます。カーテンは絶対開けないで下さい」
考えるのも嫌だが…
もし、ユノがヴァンパイアになっていたとしたら…太陽の陽にはあてられない…
「…分かりました…私はずっとユンホさんに付き添っていますので、何かあったら携帯に連絡してください」
「はい、本当にありがとうございます」
チャンミンはホテルの部屋を飛び出して、あの教会に向かった。チャンミンを助けてくれた十字架をくれた牧師のいる教会である。
おそらく、あの牧師は何かを感じ取ったからこそ、自分に十字架を渡したのだ。
何か知っている筈だ。
チャンミンはそう考えたのである。それに縋るしかないのも事実だった。
教会の中で、牧師が一人で祈りを奉げていた。
中に入ってきたチャンミンを認めると、眉をひそめた。
「何かありましたか…?」
「…頂いた十字架は灰になりました…あの日いっしょに来た友人が眠りについたきり、目を覚ましません…」
昨夜の出来事をチャンミンは詳しく牧師に話した。
「…うむ…」
牧師はしばらく考えこんでいたが、壁の時計を見て、チャンミンに尋ねた。
「ご友人を助けたい、と思いますか?」
「はい」
チャンミンはきっぱりと言い切った。
自分は神や悪魔を本気で信じている訳ではない。が、ユノは信じている。
「では、ついてきなさい」
牧師はそう言って、教会の地下にチャンミンを誘った。
地下の一番奥の部屋に入ると、そこはレンガで出来た丸い空間だった。冷蔵庫のように寒く、異様な雰囲気を感じる。何も置いていないガランとした部屋で、扉を閉めると牧師が蝋燭を灯すまで真っ暗だった。
蝋燭の明かりではそれほど明るくないので、ほとんど何も見えない状態である。
「いらしてますか?実はカートが次のパートナーを見つけたようです」
牧師が誰かに語りかけるようにしゃべると、誰もいない闇の空間から複数の声がしたので、チャンミンは驚いた。
(…カートが?我々の約束より10年早いではないか)
(よほど気にいった人間が現れたのか…)
(…この前の人間か…確かに、あの人間の血は無垢で美味だろうな…)
ユノの話をしていると分かったチャンミンの胸に怒りが湧きあがってくる。
「どうなさいます?この者の話ではカートは本気のようです。すでに血を与えたらしい」
(なるほど…下僕ではなく…本気でこれからの時間を過ごすパートナーにするつもりか…)
(どうする?我々の約束では、100年独りで森に籠る筈だったが…)
(10年ぐらい大目にみてやったらどうだ?)
(それでは示しがつかん。問題はどこまで人間が変貌したかだ…場合によってはその人間を殺さねばならん)
チャンミンの身体が恐怖で凍る。
どうやら声の主達もヴァンパイアで、カートを知っているらしい。どうして、この教会の地下で話が出来るか分からないが、チャンミンは知りたいと思わなかった。
「完全には変貌していないようです。血を与えられたが、まだ誰も犠牲にしていません。という事は『刻印』もまだでしょう」
(では、誰かが先に『刻印』を刻みつければいい)
(…私がやろう…)
「いえ、それではヴァンパイアになってしまいます。この者はその友人を「人間」として助けたいのです」
牧師がチャンミンの気持ちを代弁してくれたが、声の主達は白けた雰囲気だった。
(無茶な事をいう…そんな事はカートを殺さねば叶わない)
「では、どうやったら殺せるか教えて下さい」
チャンミンは初めて口を開いた。
(…不可能だ…人間がヴァンパイアを殺す事は出来ない…)
「やってみなければ分からない」
(思い上がるなよ…人間…我々がこうやって話に付き合ってやっているのは、牧師がいるからだぞ。貴様の友人の生死など、本来はどうでもいいのだ)
「一度、血の穢れを消したうえで、この者が友人に『刻印』を刻めば、カートは手を出せないのではありませんか?」
牧師が助け舟を出してくれた。
「あなた方が承認してくれれば出来るでしょう」
(なる程『契約者』になるわけか…どうする?人間)
チャンミンは意味が分からないまま、牧師を見つめた。
「あなたがここにいるヴァンパイアと『契約』し、『契約者』となるのです。そこであのご友人と『契り』を交わせば『刻印』が刻まれた事になり、他のヴァンパイアは手がだせなくなります」
「え?『刻印』とはなんです?『契約者』とは?」
「『刻印』は「永遠のパートナー」の印です。これが刻まれている者は絶対に他の者は手がだせないのです。『契約者』は死した後、ヴァンパイアとなって甦り、契約したヴァンパイアに仕える者です」
「…え…という事は…それをすれば、僕はヴァンパイアになるって事ですか?」
「人間として死んだ後でね…でも、それ以外にあなたの友人を人間のまま救う方法はありませんよ」
「ちょ…ちょっと待って下さい…」
チャンミンは頭の中が混乱してきた。どうなっている…自分はどうすればいい…本当に他の方法はないのだろうか…
しかし、このままでは、カートはまたやってきて、今度こそユノを連れていってしまうだろう。昨夜の出来事から人間である自分が彼に敵わないのは分かっている。
だとしたら、連れていかれる前に、カートよりも先にユノに『刻印』を刻むしかない。
他のヴァンパイアの『刻印』では、ユノがヴァンパイアになってしまうから駄目だ。
「…『刻印』を刻む、とはどうすればいいのですか?」
「…そのままです…肉体的な契りのことで…夫婦の営みというやつです…」
牧師は少し話しにくそうに話した。
「…あの…僕とヒョンは男同士なんですけど…」
(そんな事は知らない…お前たちの都合だ…どうする?契約するのかしないのか、早く決めろ)
(今日の夜はカートを呼び出して尋問してやるから、一日時間が出来るだろう)
チャンミンは考えた。
『刻印』がそういう意味だとしたら…
昨夜、カートはユノに自分を襲わせて自分を殺すつもりだった。その後で、あの部屋でユノに『刻印』を刻むつもりだったのでないか…
「…分かりました…契約します…」
チャンミンは心を決めて前を向いた。
…ユノ以上に、失って怖いものなど何もない。
※アダルトなシーンは削除しました
(つづき~からお願いします)