ユノは砂浜の浪打際に立って、夜明け前の真っ暗な空を見つめていた。
同じように真っ暗な海が目の前に広がっている。
目を閉じ、風が頬をくすぐる感触に身を委ねる。
耳に響く波の音。足元を通り過ぎていく水の感触。
海の中で暮らしていた時には知らなかった感覚。
声と引替えに足を得て、地上で生活するようになってから初めて知ったものだった。
…そうだ…初めて知ったものばかりだな…
誰かを心から愛した時、どれ程の激しい感情に揺さぶられるのか…
その想いが叶わないと知った時の絶望がどれ程のものなのかも…
今夜は王子の結婚式が盛大に行われた。
国中をあげてのお祝いで、城ではこれ以上ないくらいの豪華なパーティーが開かれた。
贅沢な食事や大道芸人達の楽しい余興が惜しみなく行われ、皆は歌い、踊り、喜びに満ちたお祝いを楽しんでいた。
ユノも王子に頼まれてお祝いの踊りを披露した。
…ユノは張り裂けそうな胸を抱えながら、悲しみを隠して舞った…
普段は人の心を察する事に長けた王子だったが、愛する人を得た喜びに満ちたあの人は何も気づかなかった…
その瞳に映るのは隣に座った愛しい人だけ…
目を開けたユノは手の中にある短剣に目を落とした。
昨夜、人魚の仲間達が、持ってきて渡してくれたものだった。
『この短剣で王子を刺して、その血を浴びれば人魚に戻れる。海の世界に帰ってこれるんだよ』
…みんな…心配して俺を見守っていてくれたんだな…
この短剣を手に入れる為に、みんながどんなに大変だったか分かっている。たくさんの犠牲を払ってくれたのだろう…でも…
…ごめん…みんな…俺はこの短剣は使えないよ…
……愛してるんだ……
…言葉に出来なくても…伝える事が出来なくても…想いが叶わなくても…
『王子が他の誰かと結婚したら、次の日の太陽が昇る前に、お前は海の泡になって消えてしまうだろう。それでもいいのかい?』
魔女に問われた時に、自分ははっきりと決めたのだった。
…あの人の傍にいられるのなら構わない、と…
一緒に過ごした時間は短かったけれど、本当に楽しくて…嬉しくて…それは命を引き換えにしても惜しくないくらい幸せで…
…だから…もう、いいんだよ…
空が白み始め、煌めいていた星が消えていく。
ユノは足を踏み出し、ゆっくりと海の中を歩いていった。
……さようなら…愛しい人……どうか…幸せになってください………
fin
※なんか、ユノだったらあっさり許して海の泡になっちゃうんじゃないかな~って妄想しまして;
実は人魚姫には別の説もあって、海の泡になる前に誰かが人魚姫に「永遠の愛」を与えたら、人魚姫は空気の娘になって永遠に生きられるってのもあるそうです。海外の映画でそういうの見た事あります(うら覚えですが;)このバージョンも書いてみたいな~もちろん、人魚ユノに「永遠の愛」を与えるのはチャンミンで~v
チャンミンが人魚だったら、ってのも考えてみたんですが、コメディになってしまった;
王子助けた後に目が覚めるまで傍にいて、王子に
「助けたのは僕ですからね。忘れないで下さいよ」とか言いそうで…;