※ユノが人魚姫だったら…という設定の妄想小説です。苦手な方は読まないで下さい。
人魚姫(別バージョン) 4
チャンミンはお城にユノを連れて行き、王子に会わせました。
最近、落ち込んでいる王子を慰める、という名目です。
王子もチャンミンが自分を励まそうとしてくれているのが分かっていたので、承知しました。
王子の前でもユノは声がでませんでしたが、王子はすぐにユノを気に入りました。
いっしょにお城を散歩したり、絵を描いたり、音楽や芝居を楽しんだりして遊ぶようになったのです。
ユノが来てから王子の笑顔が多くなったと、お城で評判になりました。
街でもそうだったように、お城の中でもユノは人気者になりました。
『これなら、王子がユノを好きになるのは時間の問題だな…』
チャンミンは胸の痛みを隠しながらそう思いました。
「ユノ」
王子に声をかけられて、ユノは振り返りました。
「君の部屋を用意したから、今日からお城で暮らすといいよ」
ユノは意味がよく分からず首をかしげました。
「あれ?チャンミンから聞いていないの?君をお城で暮らすようにして欲しいって言ってきたのはチャンミンだよ。君の荷物をもってきてくれたし」
「!」
ユノはびっくりしてチャンミン探す為に走り出しました。チャンミンを見つけると人のいないところに引っ張って行きました。誰かいると話せないからです。
「チャンミン、僕、今日からお城に住むようにって言われたんだけど…」
「ああ、そうだよ。今日からこのお城の中で王子の傍にずっといれるんだよ。良かったな」
ユノはちっとも嬉しくありませんでした。しょんぼりと、項垂れました。
「…チャンミンは…僕と暮らすのが嫌になったの…?」
「そんな訳ないだろ…」
「だって…僕、料理も出来ないし、掃除もヘタだし、散らかしてばかりで、いつもチャンミンに怒られてたし、チャンミンのパンツを洗濯した時は、洗いすぎて色落ちしちゃったし…」
「い、いや…それは関係ないって…;」
「…僕のこと…嫌いになった?…」
チャンミンは我慢できなくなって、いきなりユノを引き寄せ、強く抱きしめました。
「…そんなこと…ある訳ないだろ…」
「…チャンミン…?」
チャンミンがユノと離れて暮らす事に決めたのは、王子と仲良くなっていくのを冷静に見ている自信がなかったからです。
でも、王子に愛している、と言われなければユノは海の泡になってしまうのです。
考えただけで心臓が凍るような恐怖を感じます。
「…王子に愛しているって言われないと駄目だろ…だから、ずっと傍にいた方がいいんだよ…」
チャンミンは引き裂かれそうになる気持ちを押しこめて、ユノを静かに離しました。
「…じゃあ…元気で…」
「…チャンミン…」
チャンミンはそのまま立ち去ってしまいました。
その日は一日中、ユノはチャンミンの寂しそうな顔が忘れられませんでした。
お城で暮らすようになって数日が過ぎました。
いつものように、ユノは王子の弾くピアノを聞いていました。
王子はピアノを弾くのがとても上手くて、ユノは聞く度に胸をときめかせて聞いていました。
ピアノの音を初めて聞いたのは、あの王子の誕生日の船上パーティーの日でした。
こんな美しい音がこの世にあったのか、とユノはうっとりしたのでした。
その日のピアノを弾く王子の姿にユノは一目ぼれしたのです。
『あれ?もしかして僕はピアノの音にときめいてたの?』
ユノは、ふと気づきました。
王子様は優しくて、いっしょにいるととても楽しいです。しかし、胸はときめかないのです。胸がドキドキしてときめくのはピアノを聞く時です。
あの船上パーティーの日。嵐の前にユノは生まれて初めてピアノの音を聞いて、それを弾いている王子に恋をしたのだと思っていました。
でも、もしかして違うの…?
ユノは自分の気持ちが分からなくなってきました。
『…チャンミンに会いたいな…』
お城で暮らすようになってから、ユノはチャンミンに会っていません。もしかして避けられているのかも、と思う程です。
チャンミンの事を考えると、ユノは胸の奥がギュッと掴まれたように苦しくなるのです。
最近はいつもチャンミンのことばかり考えています。
チャンミンがいないと、心が空っぽになったように感じます。
「王子様、そろそろお支度を…」
執事が王子を呼びに来たので、王子はピアノを弾く手を止めて立ち上がりました。
「分かった。じゃあ、ユノ、後でね」
ユノは頷いて王子を見送りました。
今日は隣の国の王様とお妃様と王女様と会う日なのです。
国同士が仲良くする為の親睦会ですが、王子と王女のお見合いの話も出ていました。
でも、王子は政略結婚が大嫌いで、結婚するつもりはまったくありませんでした。
王子は今でも助けてくれた修道女の女性が忘れられないのです。
ユノもチャンミンもお城の人たちは全員それを知っていましたので、誰もがこのお見合いは失敗するだろう、と思っていました。
しかし、到着した隣の国の王女を見て、王子は驚きました。
忘れられなかった修道女の女性が、その王女だったからです。
(次回に続く)
PR