※ユノが人魚姫だったら…という設定の妄想小説です。苦手な方は読まないで下さい。
人魚姫(別バージョン) 2
今日は、警護の当番の日です。
チャンミンは家にユノを残してくるのが心配でしたが、仕方なくお城へ登城しました。
家の外に出るな
誰にも会ってはいけない
誰か来たら隠れて
などなど、言い聞かせて来たのですが、ユノは無警戒なので何が起こるか分かりません。
お城の警護をしながらも、ユノの事が気になって心はここにあらず状態でした。
「チャンミンどうしたんだ?」
「え?な、何が?」
同じ警護をしている騎士に声をかけられて、チャンミンは少し動揺してしまいました。
「なんだか、ボーッとしてるみたいじゃないか?体調でも悪いのか?」
「いや…違うよ。大丈夫だ…」
「そうか?ならいいけど。この前の王子の誕生日の日みたいにならないようにしないと。あの時は王子が無事だったからよかったけど…王子に何かあったら俺たち全員牢屋行きだぜ」
王子の誕生日の日、船上パーティーが開かれたのですが、いきなり嵐に襲われ、王子は誤って海に落ちてしまったのです。
チャンミンはその場にいませんでしたが、護衛の者は王様から怒りをかったのでした。
でも、護衛の者達がおとがめ無しですんだのは、王子が無傷で助かった事にくわえ、王子自身が庇ったからでした。
『その時、王子を助けたのがユノなんだな…』
確かに王子は優しくて良い人です。
王族という身分にも関わらず高慢な態度もとらないし、家来達にも思いやりをもって接してくれます。
頭もそこそこ良いし、顔もまあ、それなりに男前だけど…
『でも、世間知らずなところがある。まあ、世間に出てないから当然なんだけど…頭は僕の方が良いし…剣の腕前も僕の方が…』
チャンミンがそんな事を考えていると…
「なあ、チャンミン…王子に好きな人が出来たらしいって聞いたか?」
チャンミンはドキッとしました。
「え?だ、誰?」
「なんでも嵐の日に助けてくれた人だって」
「ええ!」
「でも、相手は修道女らしいんだ」
「…はあ?」
「砂浜で打ち上げられているところを助けてくれた女性らしい…でも、修道女じゃな~…」
「そ、そうか…」
チャンミンはホッとしました。
その砂浜まで王子を運んで行ったのはユノなのですが、王子はまったく気づかなかったようです。
『と、いう事はユノの片想い…やっぱり、諦めて忘れる方がいいんだ…』
ルンルンした気分になったチャンミンはそれから上機嫌でした。
上機嫌のまま家に帰ると、家の玄関の前でユノが近所のおば様たちに囲まれている図が目に飛び込んできました。
『ああ!やっぱり!心配したとおりだった!』
何か変な事をされていないだろうか?
自分が人魚だと話していないだろうか?
チャンミンは急いでユノの元に駆けつけました。
「あら~チャンミンおかえりなさ~い。この可愛い人は友人?」
隣に住んでいるおばさんがニコニコしながらしゃべりかけてきました。
「…え…い、いえ…まあ…そんなとこです…」
「いつから、ここに来てるの?本当に可愛い子ね~でも口がきけないのね。かわいそうに」
「え?」
どうしてなのでしょう。ユノは話せなくなっていました。
チャンミンを見つめながら、不安そうに首を振るだけです。
驚きつつも近所のおば様達をうまくあしらい、チャンミンはユノを連れて家の中に入りました。
「どうしたんだ?話せないのかい?」
「…そ、それが…あれ?声がでる!さっきまで話せなかったのに!」
ユノはびっくりしていました。
話せるようになったので、今日、何があったか聞く事にしました。
チャンミンがお城に行った後、一人で家の中にいたのですが、外から大きな物音が聞こえたので、様子を見ようと窓を開けたところ、隣のおばさんに見つかったのでした。
おば様は話かけてくるのですが、ユノは声がまったく声が出なくなっていて、何も話せなかったそうです。
そのうち、近所のおば様達が集まってきて、みんなユノに話かけてきた、との事でした。
「いろいろ、くれたよ。今日のお昼ご飯もごちそうしてくれたし、夕飯にどうぞってシチューもくれたよ。たくさんおしゃべりしてて内容はよく分からなかったけど、賑やかで楽しかった」
「……………」
おば様達は皆、ユノのファンになったのでしょう。
それも無理のないことかもしれません。
美しいだけでなく、ユノの笑顔は人を幸せな気持ちにさせてくれるのです。
「でも、どうしてさっきまで声が出なかったのかな~?チャンミンと二人の時は話せるのに…チャンミンは初めて会った人間だからかな~?」
チャンミンは理由が分かるような気がしました。
自分は絶対にユノが人魚である事を話さないだろうから。
その時、外から声が聞こえました。
「王子様だ~王子様が巡回に来たよ~」
「え!王子様!」
チャンミンが止める間もなく、ユノは通りに飛び出していました。
通りはすでに王子の姿を一目見ようと、大勢の人が並んでいました。
聡明で優しい王子は民衆にとても人気があるのです。
歓声の中を馬に乗った王子が歩いてきます。
通りに立つ人々に手を振りながら歓声に応えています。
その姿をユノも真っ直ぐに見つめています。
恋する瞳で、キラキラ輝く表情で。
そんなユノの姿を見て、チャンミンの胸はズキズキと痛むのでした。
(次回に続く)
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