※ユノが人魚姫だったら…という設定の妄想小説です。苦手な方は読まないで下さい。
人魚姫(別バージョン) 1
チャンミンがユノと初めて会ったのは、夜明けの海岸を見回っている時でした。
浪打際に裸の男性が座り込んで、足で波を叩いていたのです。
何をしているのか?怪しい奴ではないか、と近づきましたが、いきなり輝くような微笑みを向けられて心臓が止まりかけました。
「…な、何をしているんだ…」
「いえ…これが足か~と思って」
「え?」
「今まで鰭だったのに、足になっているから…すごいな~波をパシャパシャする感触がおもしろい」
そういって男性は笑いながら波を叩きます。
チャンミンは一瞬、頭のおかしい人かと思いましたが、彼の瞳には高貴な知性の色が宿っています。
「足が…なかったのかい…?」
「うん…僕は海に住んでる人魚だったから。魔女に頼んで足に変えてもらったんだけど…あれ?おかしいな?」
「何が…」
「足と引き換えに声を無くすって言われたんだけど…話せてるよね?どうしてだろう?」
チャンミンの頭は混乱していました。
人魚?魔女に頼んで足に変えてもらった?…何を言っているのだろう…この男は…
しかし、チャンミンは目の前にいる男性が嘘を言っているようには見えませんでした。
放っておけず、自分の家に連れて帰りました。
身体を洗え、と言っても彼はまったくやり方を知りませんでした。結局、チャンミンが教えながら洗ってあげましたが、こんな綺麗な同性の身体は初めて見た、と思ってドキドキしてしまいました。
服も貸してあげましたが、着方を教えなければなりませんでした。
「ほら、飲みな」
「何、これ?」
「紅茶だよ。気持ちが落ち着くから…」
「ありがとう…えっと…僕はユノです。あなたは?」
「…チャンミン…」
「チャンミンありがとう、いろいろ親切にしてくれて。人間って怖い怖いって聞かされてたけど、本当は優しいんだね」
ユノはまた輝くような微笑みでチャンミンを見つめます。
「……………」
チャンミンはユノに見つめられると訳もなく胸が高鳴ってしまいます。
「…どうして…ここに来たんだ?足をもらったって?」
「…う…うん…王子様に会いたくて…」
ユノの頬が鮮やかな紅色に染まるのを見て、チャンミンは嫌な気持ちになりました。
それから、ユノが台風の日に王子を助けた事、一目ぼれした事、どうしても王子に会いたくて声と引き明けに足をもらったなどの話を聞きました。
いつものチャンミンならまったく信じませんでしたが、ユノの話は信じました。
ユノには濁りも汚れもまったくなかったからです。
同時にチャンミンは胸の奥にどす黒い影が渦巻くのを感じました。
目の前のユノを王子に会わせたくない!と思いました。
「…僕は王子の身辺の警護をしている護衛だから、いつか王子に会わせてあげられるかもしれない」
「え!本当に!」
「でも、今のままではダメだよ」
「どうして?」
「人間の生活がまったく出来てないだろ?それじゃあ王子の傍に近寄れないよ」
「あ…そっか…」
ユノはしょんぼりと頭を垂れました。
「…ここで生活しながら覚えていけばいいよ」
「え、いいの?!」
ユノの顔がパアッと輝きました。チャンミンの鼓動がドクン、と跳ね上がります。
「ありがとうチャンミン!僕頑張って覚えるね!」
「ああ、分かった。いろいろ教えてあげるよ」
「本当にありがとう!チャンミンって優しいな~嬉しい~」
微塵も疑わないユノにちょっぴり罪悪感を覚えないではなりませんでしたが、チャンミンは絶対に王子に会わせるまい、と思いました。
諦めるまでユノを傍に置いておこう、と決めたのでした。

(次回に続く)
※ユノの人魚姫別バージョンです。個人的に好きなので書くことにしました~
先にばらしますがアンハッピーエンドです。

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